英国アート映画の先駆者として、世界中でカルト的人気を誇る映画監督。
作品毎に一貫したコンセプトを設け、徹底した構図と色彩、それらと融合する巧みな音楽を用いたアブノーマルな映像は、観る者を夢中にさせ、アリ・アスター(『ミッドサマー』)を始め、現代の鬼才と呼ばれる映画監督やクリエイターに影響を与えた。映画監督だけでなく画家としても活動し、パリのルーブル美術館で企画展を行う等、唯一無二の芸術的センスで活動している。
観客に強烈なインパクトを与えるグリーナウェイ作品に、海外では再び注目が集まっており、2023年ヴェネチア国際映画祭では初期作『英国式庭園殺人事件』が再上映され、大きな話題となった。本特集上映では、『髪結いの亭主』『ピアノ・レッスン』等の世界的音楽家マイケル・ナイマンが劇伴を手掛けた作品を選定。異彩を放つグリーナウェイの世界に、音で更なる煌めきを与えたナイマンとの世紀のコラボレーション全4作を一挙上映する。さらに、『英国式庭園殺人事件』『数に溺れて』は、4Kリマスターされた素材で上映、他作品についてもオリジナリティを尊重し、全作品無修正で劇場初上映。(※4K上映は対応劇場のみ。その他は2K上映)
17世紀末の英国南部ウィルトシャー。画家のネヴィルはある屋敷へ招かれる。主人のハーバード氏は不在で、代わりに出迎えたヴァージニア夫人は、夫が戻るまでに屋敷の絵を12枚完成させること、報酬は一枚8ポンドに寝食の保証、そして夫人はネヴィルの快楽の要求に応じると言う。ネヴィルは不審に思いながら絵を描き始めるが、何者かが絵の中に本来そこにあるはずのない、何かを暗示する異物を紛れ込ませようとする。
オランダ・ロッテルダムの動物園で働く双子の動物学者オズワルドとオリヴァーは交通事故で同時に妻を亡くし、車を運転していた女性アルバは一命をとりとめるが片足を失う。事故後、オズワルドとオリヴァーは何かに憑かれたように動物の死骸が腐敗していく過程を映像に記録する事に没頭する。やがて2人はアルバと親しくなり、アルバも2人に好意を抱き始める。その様子は外科医メーヘレンと助手のカタリーナに監視されていた。
英国サフォーク州の水辺に暮らす同姓同名の3人の女性シシー・コルピッツは、愛の冷めてしまった夫をそれぞれで殺そうとする。1人目のシシーは若い女と浮気している夫を湯に沈め、2人目のシシーは自分に関心のない夫を海で溺れさせ、3人目のシシーは、新婚早々熱が冷めた夫をプールで溺れさせた。検視官のマジェットは3人から一連の出来事を全て事故死として処理するように脅されるが…。
ミラノ大公プロスペローは、ナポリ王アロンゾーと共謀した弟アントーニオに国を追われ、娘のミランダと共に絶海の孤島に幽閉される。アロン ゾーへの復讐を片時も忘れなかったプロスペローは友人ゴンザーローから譲り受けた24冊の魔法書を読み解き強大な力を得て、島にいる悪魔 の力を持つ怪物キャリバンや妖精エアリエルを操り、魔法の力で復讐を実行する。
1942年イギリスのウェールズ、ニューポート生まれ。幼少期はアートに関心を持ち、ヨハネス・フェルメール等の絵画に魅せられ、画家を志す。一方で、映画への興味も強く、イングマール・ベルイマンの『第七の封印』等に夢中になる。ロンドンのウォルサムストー美術学校で3年間学び、在学中に初の映像作品『Death of Sentiment(原題)』(62・未)を制作。卒業後は、COI(Central Office of Information)に就職、記録映画の編集を担当。マイケル・ナイマンとは短編『5 Postcards From Capital Cities(原題)』(67・未)で初めて仕事をする。COI退職後、BFI(British Film Institute)の支援で短篇『H・イズ・フォー・ハウス』(73)を制作。Hで始まる単語を並べる米の子供向け番組「セサミ・ストリート」のパロディが注目され、以来一風変わった個性的な短編を次々と発表する。
80年に飛行機事故に遭った92人の事故後を記録した3時間余りのフェイクドキュメンタリー『ザ・フォールズ』で長編デビュー。82年に『英国式庭園殺人事件』を手掛け、その独特な構図と画角のなかで描かれる貴族の美しくも下品な表裏の世界を皮肉とユーモアを交えた独創的な内容が話題を呼び、その名を世界に広く知らしめた。88年に『数に溺れて』で第41回カンヌ国際映画祭芸術貢献賞を受賞、89年にジャンポール・ゴルチエが衣裳を担当した事で話題となった『コックと泥棒、その妻と愛人』で世界中を震撼させた。以降の作品に、日本の清少納言による随筆「枕草子」から着想を得た『ピーター・グリーナウェイの枕草子』(96)、レンブラントの「夜警」を題材にしたアート・ミステリー『レンブラントの夜警』(07)等がある。2014年に英国映画界への貢献を称えられ第67回英国アカデミー賞英国映画貢献賞を受賞。近年は、現代美術のアートディレクションを積極的に行っており、2017年にパリにあるルイ・ヴィトン財団の美術館フォンダシオン ルイ・ヴィトンにて行われた「近代美術のアイコン シチューキン・コレクション」展の映像作品、同年ミラノで行われた展示「Mortality Vitali」のディレクションを務めた。現在、ダスティン・ホフマンが主演するイタリアの都市ルッカを舞台にした新作映画「Lucca Mortis(仮題)」を準備中。
1944年イギリス・東ロンドンのストラトフォード生まれ。英国王立音楽院で作曲を、ロンドンのキングス・カレッジで音楽論を学んだ後、1968 年から英の週刊誌The Spectatorで音楽評を執筆、レビューのなかで使った“ミニマル・ミュージック”という表現が(音のリズムやメロディの変化を最小限にして、同じパターンを反復する音楽)後に広まり、ひとつの音楽ジャンルの総称として使われるようになった。グリーナウェイとは彼が仲間と借りていた部屋でジャン・リュック=ゴダールやアラン・レネ、黒澤明等の映画を一晩中上映する会で知り合った。初めて映画音楽を手掛けたのはグリーナウェイの短編『5 Postcards From Capital Cities』(67・未)で、その後も短篇『ア・ウォーク・スルーH』、『1-100』(共に78)の音楽を担当し、長編映画『英国式庭園殺人事件』(82)、『ZOO』(85)、『コックと泥棒、その妻と愛人』(89)、『数に溺れて』(88)、『プロスペローの本』(91)などを始め、彼のほとんどの作品で共に仕事をした。
1976年にはイタリアの劇作家カルロ・ゴルドーニによる喜劇「イル・カンピエッロ」の音楽を担当、この時に楽団「カンピエッロ・バンド」(後のマイケル・ナイマン・バンド)を結成、同バンドは長きに渡って活動を続け、日本をはじめ世界中でコンサートを行った。
79年にはブライアン・イーノ プロデュースで、初のアルバム「Decay Music」をリリース。アルバムにはグリーナウェイ監督作『1-100』の楽曲も収録された。
93年にジェーン・カンピオン監督作『ピアノ・レッスン』(93)の音楽を担当、映画は第46回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し世界中で大ヒット、同作のサウンドトラックは約300万枚以上の売上を記録し、英国で最も有名な作曲家の一人となる。その他の主な映画スコアに、パトリス・ルコント監督作『仕立て屋の恋』(88)、『髪結いの亭主』(90)、アンドリュー・ニコル監督のハリウッド大作『ガタカ』 (97)、第81回米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作品『マン・オン・ワイヤー』(08)等がある。1999年には沖縄を舞台にした日本映画『ナビィの恋』のメインテーマを手掛けた。
地域 | 劇場名 | TEL | 公開日 |
---|---|---|---|
北海道 | シアターキノ | 011-231-9355 | 3/30(土)~4/12(金) |
宮城 | フォーラム仙台 | 022-728-7866 | 5/3(金)~5/16(木) |
東京 | シアター・イメージフォーラム | 03-5766-0114 | 3/2(土)~ |
東京 | 下高井戸シネマ | 03-3328-1008 | 8/10(土)~8/16(金) |
東京 | 目黒シネマ | 03-3491-2557 | 9/1(日)~9/7(土) |
千葉 | キネマ旬報シアター | 04-7141-7238 | 4/6(土)~4/12(金) |
神奈川 | 横浜シネマリン | 045-341-3180 | 4/20(土)~5/3(金) |
群馬 | シネマテークたかさき | 027-325-1744 | 6/21(金)~7/4(木) |
長野 | 上田映劇 | 0268-22-0269 | 6/14(金)~ |
福井 | メトロ劇場 | 0776-22-1772 | 近日公開 |
静岡 | 静岡シネ・ギャラリー | 054-250-0283 | 3/29(金)~4/11(木) |
愛知 | センチュリーシネマ | 052-264-8580 | 4/26(金)~ |
大阪 | シネ・ヌーヴォ | 06-6582-1416 | 4/13(土)〜 |
大阪 | 扇町キネマ | 06-6766-4166 | 5/17(金)~ |
京都 | 京都シネマ | 075-353-4723 | 3/29(金)~4/11(木) |
兵庫 | 元町映画館 | 078-366-2636 | 3/30(土)~4/12(金) |
兵庫 | CinemaKOBE | 078-531-6607 | 6/22(土)~7/5(金) |
兵庫 | 塚口サンサン劇場 | 06-6429-3581 | 5/31(金)~6/27(木) |
広島 | 横川シネマ | 082-231-1001 | 6/15(土)~6/28(金) |
愛媛 | シネマルナティック | 089-933-9240 | 5/25(土)~6/7(金) |
福岡 | KBCシネマ | 092-751-4268 | 3/15(金)~3/21(木) |
鹿児島 | ガーデンズシネマ | 099-222-8746 | 3/28(木)~4/5(金) |
沖縄 | 桜坂劇場 | 098-860-9555 | 4/6(土)~4/12(木) |
グリーナウェイに
映画人生を狂わされた!
観た日からずっと夢中だ―
『女王陛下のお気に入り』は
『英国式庭園殺人事件』の衣裳を参考にした。
この映画の存在なしでは完成しなかった。
『英国式庭園殺人事件』の ヘアスタイルに衝撃を受けた、 彼らはルイ14世時代の人々より狂ってる!
完璧な衣裳と素晴らしい撮影の ファンになった!
ピーター・グリーナウェイなる 狂的天才を得たことに
映画の楽しさは格段にひろがった
『ZOO』オルタナティブポスター
グリーナウェイ作品はひとつは描いてみたい…
選べるならZOOがいい、 しかし叶わぬ夢と思っていたので驚愕。
この映画の シンメトリーでの計算された魔力ある画。
そのすばらしさに打ちのめされながら ペンを走らせました。
思えば、大作映画しか知らなかった 高校生の自分が、 “映画をこじらせる” 最大要因となった『ZOO』、
この映画にまだ出会っていない方、 ぜひこれを観て映画をこじらせてほしい!
1995年1月。 オーディションを経て ピーター組に参加した僕は 自分の無力さを痛感した。
監督の「美」への探究心と俳優への洞察力。 手も足も出なかった。
紛れもなくピーター組は、 僕のターニングポイントになった。
今回のレトロスペクティヴは、 その時の思いを持って浴びたいと思います。
皆様もどうぞ。
シェイクスピアの 「魔術的ルネサンス」(F・イエイツ)を えげつない知識量と マルチレイヤーの惑乱的映像によって表現した 『プロスペローの本』に驚愕!
グリーナウェイ映画の 光速で過ぎ去っていく 映像と情報のポトラッチに 対応・返礼できるのは デジタル・ネイティブ世代だけだろう。
感性を博識で超えていくこれぞ逆パンク!
学生の頃、レンタルビデオ屋で 常に貸出中で一度も借りれなかったZOOを 今、やっと観た。
ずっと秘密にしておきたかった性癖、 嗜好をそれはそれは美しく 映像化され晒されたような衝撃。
私の脳内に一つ 全く違う扉が創られてしまった。
彼の見る風景。
それは"リスト"に無いものは 一切の生存を許さない、超支配的な王国。
画面内にちょうどぴったり 99匹の野生の羽虫が必要だったら、 その数がそこに集まるまで 永遠に待ち続けるだろう。
完全無欠な画作りに対する狂気と、 それに見合ってあり余る 暴力的なまでの美しさ。
綯い交ぜの鋭さにより生まれ落ちた グリーナウェイの御伽の国は どろっと赤い蜜の味、
絢爛を裂きむしりたいという 衝動にかられたのは初めてだった。
磨きのかかった構図に 奢侈に縫い込まれた装飾、 人間の内から溢れたいじらしい目。
透明と程遠い狂気のいかに分厚いことか。
骨肉に侵食した毒のささやきは 私たちをなめらかに発狂させる。
グリーナウェイ映画において、 ナイマンの音楽は、 静謐で美しい絵画的な映像を彩る、額縁だ。
グリーナウェイの狂気をなだめ、 助長し、そして気品を与える、
クラシカルで現代的な、額縁の音楽。
危険で甘く知的で悪い冗談、
グリーナウェイ×ナイマンが 産み出した世界でないと 未だにこの陶酔は味わえない。
『英国式庭園殺人事件』について 自身を「映画という媒体に身をおいた画家」 とみなすグリーナウェイの神髄。
悦びと同時に混乱を覚え、 美しさに魅入られながらも 親しみからは遠く離れた冷徹な映像に、
現代社会から消えて久しい “恍惚”が充満しています。
感情移入しない。
語られる物語から作者の哲学を読み取らない。
そこにはポリティカル・コレクトネスの地獄が待っているわ!!!